親しき仲にも礼儀あり。借用書作成のススメ
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人間関係が破綻する理由で一番多いのがお金に関するものです。だから、どんなに親しい間柄でも、お金のやり取りをするときは慎重になる必要があります。
民法の条文では、口約束でもお金の貸し借りの契約は有効に成立します。けれど、口約束だと後々言った言わないの水掛け論になることが多く、トラブルの元です。
しかし、借用書を作ればこの不毛な争いは回避できます。
ただ、借用書を作ることを提案すると、お金を貸してくれという相手が「親友なのに借用書を書くのか!!」と怒ったり、「そんな紙切れがないとわたしのことを信用できないの?」と情に訴えてきたりすることもあるでしょう。
当サイト管理人の経験上、借用書を作ると聞いて感情的になったりする人は、先々の返済もきちんとしてくれません。返せなくなったときも感情的になります。相手を信用してお金を貸したのに、貸したほうが悪者のように口汚く罵られたり、最悪の場合暴力を振るわれたりします。
貧すれば鈍するという言葉ありますが、お金に困っていると冷静な判断ができなくなっています。多少感情的になるのは分かるのですが、お金を貸す側の不安や心配を考えて、借用書を書いてくれないような人とはきっぱりと関係を解消しましょう。その方があなたの精神衛生上いいと思います。
お金を貸してほしいという相手が借用書を作ることを了承した場合は、下記のような書式で作るのが賢明です。
「借用書」と「金銭消費貸借契約書」とは
借用書、金銭消費貸借契約書はどちらも次のような役割を持った覚書・契約書です。
- お金の貸し借りがあったことを証明する
- 返済期日・利息・返済が滞った場合の処置などの取り決めを記載する
では、借用書と金銭消費貸借契約書にはどのような違いがあるのでしょうか?
借用書とは
借主が署名し、貸主が保管します。(連帯保証人がいる場合は、連帯保証人の署名をもらう必要があります。)貸主が署名しなくても良いので、金銭消費貸借契約書よりも簡単に作成できるのがメリットです。
借用書の例
お金 貸す蔵 殿
- 私は貴殿より令和2年1月1日、金壱百弐拾萬円を借り受けました。
- 上記、借り入れにつき、令和3年1月1日限り、一括にて返済します。
- 利息は年5%とし、毎月15日に限り、その月分を支払います。
- 遅延損害金は年10%とします。
- 借主について、次の事由が一つでも生じた場合には、借主は期限の利益を失い、直ちに残金を一括で支払うものとします。
- 利息の支払いを一度でも怠ったとき。
- 民事再生の手続きもしくは破産の申し立てがあったとき。
令和○○年○月○日
借主が署名し、貸主が保管します。利息や遅延損害金の取り決めをした場合も、借用書に明記します。
上記の借用書は、令和2年1月1日に「お金借り太郎」さんが「お金貸す蔵」さんから120万円を借りています。借りた120万円は一年後の令和3年1月1日に返済することとして、利息を毎月15日に支払うとしています。この利息は年率5%なので、「120万円×5%÷12ヶ月=5,000円」を月々支払うことになります。
ここでは借りたお金の返済方法や利息の支払い方法が決められていないので、民法の原則に従って貸主「お金貸す蔵」さんの家に現金を持参することになります。もちろん、銀行振り込み等の別の方法で返済する場合はこの借用書にその方法を書くことになります。
期限の利益について
上記の借用書の5番に「期限の利益」という言葉が出てきます。
期限の利益とは、期限の到来までは債務の履行をしなくてもよい、という債務者の利益のことです(民法136条)。期限の利益の喪失とは、債務者の期限の利益を喪失させることによって、期限の到来前であっても、債務の履行を請求することができるようにすることです。
簡単に言うと「お金貸す蔵」さんから「事情が変わったから今すぐ貸した100万円を返してくれ」と「お金借り太郎」さんが言われたとしても拒否できるのが期限の利益と呼ばれるものです。
ただし、この期限の利益には条件をつけることができます。上記の借用書の場合だと、利息の支払いが遅れたときや自己破産をしたときは、今すぐ100万円を返してくれと「お金貸す蔵」さんが言ってもいいということになります。
金銭消費貸借契約書とは
貸主と借主が署名し、双方が各1通ずつ保管します。(連帯保証人がいる場合は、貸主・借主・連帯保証人それぞれが署名し、写しを3通とり、三者が各1通ずつ保管します。)
金銭の貸し借りに関わった者 全員が文書を保管するので、行き違いなどを防ぐことができるのがメリットです。
特に、貸し借りした金銭が高額の場合や返済方法が分割の場合は、金銭消費貸借契約書の方が適しています。
金銭消費貸借契約書の例
借主(乙) お金 借り太郎
甲と乙は、次のとおり金銭消費貸借契約を締結する。
第1条(貸借)
甲は乙に対し、本日、金壱百弐拾萬円を貸し渡し、乙はこれを借り受け受領した。
第2条(弁済期)
乙は甲に対し、令和3年1月1日に限り、甲の住所に持参もしくは送金して返済する。なお、送金先銀行口座は甲が別途指定する。
第3条(利息)
乙は甲に対し、元金に対し年5%の利息を毎月15日に限り、その月分を支払うこととする。なお支払いの方法は第2条と同じとする。
第4条(遅延損害金)
乙が支払いを遅滞したときは、遅滞した日の翌日から完済まで、年10%の遅延損害金を支払うものとする。なお支払い方法は第2条と同じとする。
第5条(期限の利益の喪失)
乙は、次のいずれかに該当する場合、甲からの通知、催告を要せず当然に期限の利益を失い、直ちに、残金を一括で返済しなければならないものとする。
- 利息の支払いを一度でも怠ったとき。
- 民事再生手続きもしくは破産の申し立てがあったとき。
上記の金銭消費貸借を証するため、本書2通を作成し、各当事者署名捺印の上、各1通を保管するものとする。
令和2年1月1日
借主・貸主が署名し、双方が保管します。(連帯保証人がいる場合は三者が署名し保管)利息や遅延損害金の取り決めをした場合、金銭消費貸借契約書に明記します。
上記の金銭消費貸借契約書は、令和2年年1月1日に「お金借り太郎」さんが「お金貸す蔵」さんから120万円を借りています。借りた120万円は一年後の令和3年1月1日に返済することとして、利息を毎月15日に支払うとしています。この利息は年率5%なので、「120万円×5%÷12ヶ月=5,000円」を月々支払うことになります。
ここでは借りたお金の返済方法や利息の支払い方法が、持参もしくは送金と決められています。
また、支払いが遅れたときに適用される遅延損害金についても取り決めがされています。
借用書・金銭消費貸借契約書を作成するときの注意点
基本的な注意点
- 鉛筆書きは厳禁です。また最近よく見かける消すことのできるボールペンもNGです。消すことのできない筆記用具で書きます。また、パソコンで作成しても構いませんが署名と押印は必須です。
- 署名は直筆です。代書は厳禁です。
- 捺印は、拇印でも構いません。拇印の場合は親指か人差し指を使います。ただし、書面をより正式なものとするのなら印鑑証明書を添付して実印が押すのがいいでしょう。
- 契約年月日は、"お金を貸し渡した日"になります。
- 最後の日付は明記してください。利息の計算や時効の起算日となります。
- 連帯保証人がいる場合はその旨を記載しましょう。連帯保証人の署名、捺印も必要になります。
- 金額の改ざんを防ぐため、金額は全て漢数字(壱・弐・参)で記載します。
- 金銭消費貸借契約書の場合、「この契約書を作成した理由」を明記します。
お金を返してもらう日と返済方法を決めておく
一括返済の場合の例
令和2年12月末日限り、指定する銀行口座に送金して返済する。振込手数料は借主の負担とする。
分割返済の場合の例
元金を12回に分割し、指定する銀行口座に送金して返済する。振込手数料は借主の負担とする。
例)
令和2年1月から令和2年11月まで、毎月末日限り金20万円ずつ
令和2年12月末日に限り金10万円
上記のように、返済期間・毎月の返済日と返済金額・返済方法を記載します。もし記載がない場合は民法の原則に従うことになるのですが、そもそも民法の知識を誰もが持っているわけではなくトラブルの元にもなるので、事前に決めておきましょう。
金利と遅延損害金について決めておく
「利息制限法」という法律により、金利には上限が定められています。法律に反する金利の記載は、最悪の場合、契約自体が無効になることがあるので注意が必要です。
利息制限法の上限金利一覧 | ||
---|---|---|
金利 | 遅延損害金 | |
元本が10万円未満の場合 | 年20% | 年29.20% |
元本が10~100万円未満の場合 | 年18% | 年26.28% |
元本が100万円以上の場合 | 年18% | 年20.19% |
遅延損害金は、お金を返さなかったときの損害金です。通常の金利に上乗せされます。計算方法は
元金 × 遅延損害利率 × 返済日から返済されるまでの日数 / 365日
となります。
「期限の利益」の喪失条件を定めておく
「期限の利益」とは、「借主が契約書で定めた期限までお金を借りていられる権利」です。逆に言うと、借主は「定められた期限までは返済しなくていい」権利を持っていることになります。ですので、貸主の事情で返済日前に返済を求められてもこの期限の利益が借主にはあるので応じる必要はないということになります。
しかし、借主が決められた返済日を守らないなど契約を守らなかったときにまで期限の利益で借主を保護する必要はありません。不測の事態に備えて、貸主は期限の利益が喪失する条件を定めておく必要があります。
期限の利益を喪失させる条件(例)
- 支払いが2回以上遅れた場合
- 仮差押を受けた場合
- 破産や民事再生の申立をした場合
借用書・金銭消費貸借契約書の効力
借用書・金銭消費貸借契約書は次のような効力・効果を持っています。
トラブルの防止
金銭貸借の事実や返済方法などを書面にすることで、思い違いや言った言わないの水掛け論などのトラブルを防ぐことができます。
返済をスムーズにする
返済日、返済方法、金利などを明確にしておくことで、後々の返済がスムーズに進みます。お金を貸す側も借りる側も事前に明確になっていれば安心です。
裁判の証拠になる
万が一、返済がなされずに裁判などの法的手段を取らざるをえなくなったときも、証拠として採用される・考慮されます。
借用書に収入印紙は必要?
印紙税法の規定により、金銭の借用書には印紙を貼るように定められています。貼らなかったとしても、借用書の内容が無効になることはありませんが、印紙税の納税を怠ったことになり、過怠税が課せられます。過怠税は、納付しなかった印紙税+その2倍に相当する金額が必要になります。注意しましょう。
さいごに
以上、個人間のお金の貸し借りについて上限金利と借用書・金銭消費貸借契約書作成方法をご紹介しました。
お金の貸し借りは人間関係を悪くすることが多いので、身内の間だとしてもきちんと書面を作っておくと安心です。書類を作ることを提案すると「わたしのことを信用していないのか」と感情的になる人もいますが、その程度のことで感情をあらわにする人は信用できません。身内でもなんでもお金を貸さないのがよいと思います。